『無限』に潜む罠 〜 (続)素数の集合をごにょごにょすると…

ROYGBさんがはてな不思議なコメントをされていた。これはこの前まで僕がしていた勘違いと通じるところがある。

例えば、自然数を「2のべき乗」の和で表します。
……(中略)……
そして、自然数を表すのに使った「2のべき乗」を要素にもつ集合を考えると、そのべき集合は自然数の集合になると考えられます。

「2のべき乗の和で表します」とは、2進表示することと思ってよい。そして「そのべき集合は自然数の集合になると考えられます。」とは、冪集合が数え上げ可能(つまり『可付番』=『可算』)であるということを意味している(はず(^^ゞ)。
これは数学的に言えば次のようになる。

濃度\aleph_0の集合P = {a_0, a_1, a_2, a_3, a_4, a_5, … }の冪集合を集合Qとする。
Q = { φ, \{a_0\}, \{a_1\}, \{a_0, a_1\}, \{a_2\}, \{a_0, a_2\}, \{a_1, a_2\}, \{a_0, a_1, a_2\}, \{a_3\}, … }を考える。
Qの各元について、a_{i-1}の有無を第i桁で表すような文字列に置換することにより、
集合R = {000〜, 100〜, 010〜, 110〜, 001〜, 101〜, 011〜, 111〜, … }を作る。(但し"〜"は以降"0"が続くことを表す)

このとき、Qは\aleph_0の冪集合なので濃度\aleph_1であり、Rは左端を最下位ビットとして2進法で読めば、自然数の集合N {0, 1, 2, 3, …}に対応するので明らかに自然数と等濃度で\aleph_0である。しかし、QとRは作成手順より明らかに1対1対応の関係(=全単射)である(!!?)

何が間違っていたのだろうか? これは僕が前のDiaryで犯した間違いと相同だ。

次のように考えるとそれがはっきりする。
① 2の羃乗の集合をAとする。

A = {2^0, 2^1, 2^2, ...}

② Aの冪集合をBとする。

B = {φ, \{2^0\}, \{2^1\}, \{2^0, 2^1\}, \{2^2\}, \{2^0, 2^2\}, \{2^1, 2^2\}, \{2^0, 2^1, 2^2\}, … }

③ Bの各元について、含まれる数の和に置換した集合をCとする(ただしφは0とする)

C = {0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, … }

ここでAは濃度\aleph_0、Bは冪集合なので濃度\aleph_1、Cは自然数の集合なので濃度\aleph_0である。さらに、③の操作はBの各元に対して行っており、またそうして作成したCの元に重複はないので、集合Bと集合Cは1対1対応する。よってBとCの濃度は等しい(!!)。


もちろん、\aleph_0の集合と\aleph_1の集合の濃度が等しいはずはなく、どこかに誤りがある。どこでしょう?

quintiaさんの説明を参考にここにもう一度書きます。
Bから③の手順により作られる集合はC(自然数の集合)ではない。有限番目を注目している限りはBとCが異なる集合であることには気づかない所がミソ。Bは冪集合であるので、2^i (iは任意の自然数)を全て含むような元も存在する。その元について③の操作を行うと発散するのでこれは自然数の元には含まれない。よってCの全ての元はBの元から作られるが、逆は必ずしも真ならず、Bの元には対応する元をC(自然数の集合)の中に持たないものがある(つまり全射でない)。そしてそのような元は無限個ある。たとえばBの元で
{2^0, 2^1, 2^2, 2^3, 2^4, 2^5, …} (つまり全ての元を含む)
の他に、
{2^1, 2^2, 2^3, 2^4, 2^5, …} (2^0以外を全て含む)
{2^0, 2^2, 2^3, 2^4, 2^5, …} (2^1以外を全て含む)
{2^0, 2^1, 2^3, 2^4, 2^5, …} (2^2以外を全て含む)
{2^{100}, 2^{101}, 2^{102}, 2^{103}, 2^{104}, …} (2^{100}以降を全て含む)
などいくらでも考えられる。

P,Q,Rの話に即して言えば、冪集合Qの元にはPの全元を含む集合も含まれており、これは集合Rにおいては全て"1"の無限長文字列に対応し、それに対応するNの元は存在しない。また、対応するNの元が存在しないようなQの元は無限個存在する。集合Rを、{000〜, 100〜, 010〜, 110〜, 001〜, …} (但し"〜"は以降"0"が続くことを表す)と表記していたのは実はごまかしで、"〜"を用いないような文字列(つまり後ろの方に無限に1が続くような文字列)も生成されるということです。有限番目までだけを線で結んで終わりにしちゃいけないんですね。だからって、無限回 線で結べってのもできない話なので困ってしまいますが(^^ゞ


要は、無限番目には悪魔が潜んでいる、ということでしょうか笑